私は、楽観的な性格とよく言われます。楽観家だから「あなたはストレスがなさそうね」と言われると、「楽天家であるように心がけています」とお応えします。
ストレスは誰にでも存在します。ストレスに対しては、それに耐える力、所謂「ストレス耐性」がとても重要になります。どのくらいのストレス量に耐えることができるかは、その人の性格や体質・考え方・体調などによって異なります。例えば、膨らんだゴム風船を指で押します。押す力が強過ぎれば割れてしまいます。しかし、押す力に対して押し返す力が強いと割れることはありません。この押し返す力が「ストレス耐性」に例えられます。風船のゴムの厚さや中の空気圧など様々な要因が影響します。我々は、この押し返す力「ストレス耐性」を高める方法を自分で開発することがとても重要になります。
入社、転勤、入学などでこれまで慣れ親しんだ環境から新しい生活環境への変化から不安や悩みなどストレスが多いこの季節。さらに、季節の変わり目は気持ちの落ち込みなどももたらします。気持ちの落ち込みは、セロトニンの不足が深く関わっています。季節の変わり目は、なんだか食べ過ぎたりと「過食」ぎみになりがちです。歓送迎会、お花見なども過食を後押ししてしまいます。特にご飯や麺などの炭水化物を沢山食べてしまうという特徴が季節の変わり目にはあります。この炭水化物の過剰摂取は、血糖値の乱高下から体調の乱れを引き起こします。季節の変わり目に摂るべきは、セロトニンの材料になるアミノ酸から作られる「トリプトファン」です。このトリプトファンを含むアミノ酸は、豆、魚、肉、乳製品、卵などに豊富に含まれています。トリプトファンからセロトニンが作り出される過程では、ビタミンC、ビタミンB群、鉄、葉酸などが補酵素・補因子も必要です。季節の変わり目は、炭水化物を控えめにして、豆、魚、肉、乳製品、卵、そしてビタミン、ミネラルを多く摂取してストレス耐性に心がけてみてください。
また、もちろん十分な睡眠で睡眠の質を上げることもストレス耐性に重要です。セロトニンは睡眠ホルモンといわれている「メラトニン」へと変換し分泌され、眠りを促します。アミノ酸の積極的な摂取は、睡眠にも良い影響をもたらします。
これ以外に適度な運動やストレッチなどのアクティブレストやカラダを温めることは、自律神経の乱れを整え副交感神経が優位な状態にもっていくことを意識してみることも重要です。さらにボディースキャニングなどを取り入れたマインドフルネスや瞑想なども自律神経の乱れを整え副交感神経優位にすることは、ストレス耐性に良い方法だと思います。
ところで、「セロトニン」は、精神や心のバランス役の神経伝達物質でもあります。神経伝達物質は、神経細胞の電気信号伝達に関与します。神経細胞一つ一つは、直接つながっていません。神経細胞の間には小さな隙間があります。このため、電気信号を直接伝えることができないのです。そこで、神経伝達物質といわれる化学物資が隙間の一方から放出され電気信号の伝言役として他方へ橋渡しをします。一旦橋渡しを終わると元の場所に回収され、次の出番を待ちます。この橋渡し役の神経伝達物質の量が過剰に分泌されたり、不足したりすると折角届いた電気信号が正しく伝わらなくなります。ストレスに関わる電気信号の伝言役を行っているのが「セロトニン」なのです。そして回収役をするのが「セロトニントランスポーター」です。実は、この回収役の「セロトニントランスポーター」がストレス耐性と大きく関係していることが近年明らかになっています。
「セレトニントランスポーター」の遺伝子には、SS型、LL型、SL型とその長さから短いもの、長いもの、そしてその中間という3種類しかないことが報告されています。この長さが、ストレス耐性の決め手となるのです。ストレス耐性が強く、強いストレスに対して押し返すことができるLL型。ストレス耐性が弱く、強いストレスを押し返すことができないSS型。そして、その中間ということです。LL型の遺伝子を持つ人は、最も性格がおおらかで楽天的、逆にSS型の人は不安を感じやすく、うつ病の発症リスクが高いことまで解っています。
実は、アジア人は、欧米人に比べてネガティブな性格のSS型遺伝子を持つ割合がとても多いのです。一方、欧米人は、ポジティブな性格のLL型遺伝子を持つ人の割合が多いのです。そのなかで日本人は、ポジティブな性格のLL型遺伝子を持つ人は僅か3%、ネガティブな性格のSS型遺伝子を持つ人の割合が世界で最も高い民族ということも解ってきました。遺伝学的にはほとんどの日本人は、ネガティブ思考ということでストレス耐性が弱いのです。
「ストレス耐性が弱いこと」「ネガティブ思考であること」は、決して悪いということではありません。ストレスに敏感な人は繊細で気遣いや思いやりのある性格の人が多いはずです。世界に目を向けると、日本人は、他国に比べて繊細さや気遣いなどの特徴を持つ人が多いと思います。この繊細さが世界に誇れる技術を産み出していることは間違いないことだと思います。また、規則正しさや時間に正確なこと、特に正確な鉄道運航は世界に誇れるものだと思います。日本人は、ストレス耐性の弱さを繊細さ、気遣い、正確さなどで補ってきたのです。
ヒトの性格を形作る要素として、遺伝子の役割は1/3程度で、残りの2/3は、それ以外のことが関係しているので、遺伝子の型を嘆く必要はありません。これまで、ストレス耐性の弱さを逆手にとって技術の進歩を進めてきたように、これからは個人ひとりひとりが、押し返す力「ストレス耐性」を高める技術の進歩を進める時代になってきたのだと私は、思っています。