前回、疲労を二つに分けて説明しました。一つは、「質的・量的な精神・身体の能力低下状態」、そしてもう一つは、「心理的な疲労感」。やりがいや達成感などの心理的影響が本来の疲労している感覚をマスキングしてしまうことをご説明しました。身体の限界まで活動し、時には過労死のような悲劇的なケースは、疲労感をマスキングされた状態と、身体・精神的能力の低下状態との乖離によるものであることもご説明しました。また、このような乖離が、疲労の定量化や可視化をより複雑に、そして困難にしていることもご理解いただいたと思います。「疲労感や能力の低下状態から早期にリカバリーしたい」ということは多くの人の願いです。今回は、そのための方法として「休養」についてお伝えしたいと思います。
皆さんは、休養と聞くと温泉や休日の過ごし方などを思い浮かべるのではないしょうか。「休養とは、休んで体力を養うこと」とモノの辞書に書いてありますが、私は「疲労感や能力の低下からリカバリーするための対策」と解釈しています。休養という言葉は、昭和53年に厚労省(当時の厚生省)が発表した第一次国民健康づくり対策の基本的考えの中で栄養・運動と並んだ健康づくりの3要素として使われました。これがきっかけとなり栄養・運動・休養は、健康の基本として広く一般に根付いてきました。しかし、栄養や運動に比べ、休養に対しての理解は40年以上たった今でも遅れています。これを物語るように未だに休日に家でゴロゴロしていることが休養と考えている人も少なくありません。休養の理解については、それ単体ではなく「栄養・運動・休養」の健康づくりの3つの要素との関係から考えてみることが重要です。そして、そこから新たな対策も見えてきます。
運動分野からみた休養については、「アクティブレスト」と「パッシブレスト」という言葉やこの組み合わせが重要と最近耳にすることが多くなりました。アクティブレストは、スポーツジムなどでしっかり運動するというものではありません。日本語で「積極的休養」と呼ばれ、その名の通り積極的にカラダを動かすことによって疲労回復効果を高める方法です。「カラダを動かすと、さらに疲れるのでは」と思う人がいるはずです。疲れない程度の軽い動きは、血液循環を促し、身体から老廃物を洗い流し、フレッシュな酸素や栄養素を各所へ届けるなど代謝効率を高めます。実際にトップアスリートは試合翌日を完全休養とはせず、軽い運動・練習をとり入れたりしています。また、ストレッチ、ウォーキング、ヨガ、ピラティスなどの軽いエクササイズなどの有酸素運動やぬるめの入浴などもアクティブレストに有効とされています。さらにアクティブレストは、疲労回復に重要な自律神経を整える効果も期待できます。「幸せホルモン」と呼ばれる神経伝達物質セロトニン分泌を助け精神的な安定に役立つともいわれています。
他方、カラダを動かさずに休養する方法「パッシブレスト」は、日本語では消極的休養と呼ばれています。パッシブレストでは、ゆっくりとくつろぐことを心がけてください。人生の3割以上の時間を占める睡眠は、消極的休養としては最も重要な方法です。自分が心地よいと感じることや好きなことをして過ごすことも重要とされています。読書、音楽鑑賞、日光浴、森林浴、瞑想も有効です。さらにアロマや香りは、鼻腔内の受容体を経由したシグナルが脳に伝達されリラックス効果をもたらすことがすでに科学的に明らかになっています。また最近では、皮膚の受容体を経由するリラックスウエアも開発されています。ただ、好きなことをして過ごすといっても、スマートフォンやパソコンなどの電子機器の使用は避けた方がよいです。これはブルーライトによって交感神経が刺激され、脳が休まらず回復しづらくなってしまうためでぜひご注意ください。
続いて栄養分野からみた休養についてです。「精神・身体の能力低下状態」からの回復と栄養に対しては、適切な食事からの栄養摂取が代謝エネルギーの補給ということでは当然必要になります。このことは十分理解されていると思います。ただ「疲労感」からの回復と栄養に対して考えると体内のホルモンバランス、特に神経伝達物質のバランスを重視した栄養の摂取について考える必要があります。こころを落ち着かせる抑制系神経伝達物質GABAや、興奮系と抑制系神経伝達物質の調整役を行うセロトニンなどの分泌が必要になります。例えばココナッツオイルとくるみを併せて取るなどしてGABAの分泌を促すことに気を遣うことも重要です。「だるさ」という疲労感を引き起こす血糖値の乱高下を予防するための糖質コントロールや一気食いなどの食べ方などへの配慮も重要になります。また、睡眠直前に食事をすることは、寝つきの悪さを招いたり、翌朝の重さなどをもたらすため睡眠への悪影響にもつながってきます。
これらのことから、休養を考えるときには、健康づくりの3つの要素「栄養・運動・休養」を網羅的にとらえていくことが大切になります。