ウイルス感染で、発症する人しない人

スイス・ドイツでの仕事から週末帰国しました。この季節のヨーロッパでは、春に向かって日々、陽が長くなることを実感できます。長い冬から解放されることを待ち望んでいた人々の顔も徐々に明るくなっていきます。欧州北部、特に北欧の冬は暗くて長い薄暗い世界という感じです。冬の日照時間は、5,6時間になってしまい明暗サイクルが極端に変化します。このため紫外線(日光)不足となり「太陽のビタミン」と呼ばれているビタミンD欠乏を引き起こしてしまうことも多く、サプリメントは手放せないようです。他の季節性の身体の変化として、「冬季うつ病」もあります。秋から冬にかけてうつ症状が現れ、春ごろになると症状が消えるという季節性リズムを繰り返すものです。20歳代以降の女性に多くみられ、高緯度地方ではその数は増加するとされ、北欧ではこの傾向はさらに顕著なようです。特徴は、意欲や思考の低下、倦怠感などがあり、この対策のひとつは赤道近くへの旅行と言われています。保養の意味だけでなく明暗サイクルからのリカバリーのために旅行も一役かっているようです。

我々が身体に受ける光はとても大切です。光の情報は、目から脳の視床下部にある視交叉上核へと伝えられます。視交叉上核が朝の強い光を受けると、日中の活動を支える「セロトニン」というホルモンを分泌させます。このセロトニン分泌から13-15時間後に睡眠ホルモンといわれている「メラトニン」というホルモンへと変換し分泌され、眠りにつくという睡眠覚醒リズムが産まれます。

ところで、ヒトにとってベストの睡眠時間は何時間でしょう?この答えは、6時間半から7時間半。この睡眠がもっとも長生きで幸福感も高くベストとされ、これよりも短時間睡眠、または長時間睡眠ではパフォーマンス低下がみられると報告されています。冬の日照時間の減少は、睡眠時間の増加や延長を引き起こしやすいので、身体の回復や休養に最適な睡眠覚醒リズムと明暗サイクル、そして24時間の概日リズムの同期を上手に調節することが大切になります。

さて毎年、冬になると話題になるのが、インフルエンザ。これの別名は、季節性流行性感冒。では、インフルエンザは毎年冬に流行するのはなぜでしょうか? そして春になると自然と終息するのはなぜでしょうか? ここには、やはり外部環境との深い関係があります。外部環境の第一は「湿度」です。湿度があると水分とともにウイルスは地面に落ちます。しかし乾燥していると、くしゃみや咳による飛散ウイルスが空気中にふわふわと長時間漂ってしまうのです。このため冬場は乾燥しがちですから空気中に多くのウイルスが飛散しているのです。またこれに加えて、ヒトの粘膜(鼻・喉)が乾燥により免疫バリアである粘液質を失い防衛機能が低下し、そこに飛散ウイルスが付着し侵入してしまうのです。そして第二に「気温」があります。冬場の気温低下は、身体から熱を奪います。これにより代謝は落ちてしまうので身体は熱を逃がさないように交感神経を働かせます。すると血管は細く締まり血流が少なくなり放熱を抑えるのです。寒いと肌の色が白くなるのは血管が締まって血流が少なくなっているからなのです。このような血流の減少は、免疫担当細胞として重要な働きをする血液中の白血球の働きを低下させてしまいます。白血球は、顆粒球、リンパ球、単球の3つに分類できます。顆粒球は、サイズの大きな異物(細菌など)から体を守ります。リンパ球は、サイズの小さな異物(ウイルスなど)から体を守ります。また、ガン化した細胞の退治も行います。単球は、顆粒球、リンパ球を働かせる、司令塔の役目を果たします。日中の活動などで交感神経が優位な状態では、アドレナリンやノルアドレナリンという興奮物質が放出されます。顆粒球の膜上には、アドレナリンレセプターがあり、アドレナリンが放出されると顆粒球が増えます。一方、夜間や休養時などでは副交感神経が優位になり、アセチルコリンというリラックス物質が放出されます。リンパ球の膜上には、アセチルコリンレセプターがあり、アセチルコリンが放出されるとリンパ球が増えます。この理由から、インフルエンザのようなウイルスを退治するには、しっかりと身体をリラックスして副交感神経を高めることが有効といわれています。

ところで、ウイルスが体内に入りこみ感染が確認されても、発症しない人、発症しても軽くすむ人がいるのはなぜでしょうか? そこには、免疫力との関係があります。年代別免疫NK細胞を見ると、20歳代のピーク時に比べて60歳代ではその活動が約半分にまで低下します。さらに、80歳代ではピーク時と比べて約1/4にまで低下してしまいます。また、10歳の子供はピーク時と比較して1/4程度で、80歳代とほぼ同様の免疫力と報告されています。さらに、ストレスや過労が加わると交感神経の緊張状態をもたらし、リンパ球の活動低下を招いてしまうのです。我々が、いますぐできることは、「身体を冷やさないこと。身体を温める。」「運動などで汗を流す」「食事をとりすぎない。腹八分目」「ストレスをためない」「明るく、前向きによく笑う」「しっかりと睡眠をとること」など、概日リズムや自律神経のバランスを整えて、血液の流れをよくすることが大切です。これにより免疫担当細胞を身体の各所に十分運ぶことができます。血液の流れを良くすることは、自己免疫力が高まり、また仮に病気になっても早期の回復につながるということになります。